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スーパーGT第4戦、富士スピードウェイ

「誠太、クルマから離れろ!」。

土屋監督の絶叫が、無線を通じてスタッフ全員の耳に響いた。TVモニターには、最終コーナー手前のランオフエリアに停めたピンクのマシンが後退りするのを、必死に止めようとしている野中選手が映っていた。火災が発生したマシンの火の勢いは増すばかりだった。

8月6日、2023年スーパーGT第4戦、富士スピードウェイの決勝は、スタート前から雨模様で、前日の予選とはまったく異なる路面コンディションとなり、決勝レースの波乱を予感させた。予選11番手の25号車HOPPY Schatz GR Supra GTを含め、全車ウエットタイヤでのスタートとなった。

しかし、走行ラインはやがて乾きだし、10周過ぎからはドライコンディションとなり、各車スリックタイヤに履き替えるという忙しい展開となった。そんな中で、35周目に、244号車HACHI-ICHI GR Supra GTが最終コーナーでエキゾーストパイプを脱落させ、1コーナーを回った先、コカコーラコーナーの手前でストップした。

マシンからは黒煙が上がり、やがて火の手が上った。幸いドライバーの佐藤公哉選手に怪我はなかったが、消火のためにセーフティカー導入となり、レースは振り出しに戻った。

さらに、アクシデントは続き、65周目、今度はあろうことか25号車HOPPY Schatz GR Supra GTに魔の手が伸びた。ダンロップコーナーの先で、火を吹きながらスローダウンする25号車がモニターに映し出された。

左側面のエキパイとリアフェンダーの内側から炎が見える。コース脇の芝生に停め、マシンを降りた野中誠太選手は、コースマーシャルに消火を求めながら、そこが上り勾配のため後退りを始めたマシンを押し留めようとした。冒頭の場面は、まさにその瞬間の出来事だった。

去年夏の鈴鹿テストでの大クラッシュに続き、今年3月の富士のテストでもマシン大破。その都度、チームのエンジニアとメカニックが必死に修復し、マシンをよりアップデートさせてきた。

マシン全域に創意工夫がなされ、まさしく手塩にかけて作り上げてきたことを、傍らで作業を見守ってきたドライバーたちは身に染みて知っている。それゆえ、マシンにこれ以上ダメージを与えたくないという思いが、野中選手の咄嗟の行動となった。

しかし、いつ爆発的な火災になるかわからない。そんな危険な状態の中にドライバーを置くわけにはいかない。それが、監督の絶叫となった。

レースは赤旗中断。燃え盛る火勢に消火活動も手まどい、マシンは全損状態となった。

レース後、土屋監督は「すべてを失ってしまった」といいながらも、前を向いていた。ここで止めるわけにはいかない。SNSに多くのファンからは応援の声が寄られた。マシンの愛称である「ホピ子」をもう一度復活させてという声が上がった。

石渡美奈の思いも揺るぎない。「ホピ子2の快走をもう見ることはできないと思うと、言葉がありません。しかし、何年かかるかわからないけれど必ず戻ってくると武士監督は言っています。その道筋は、春雄さんから引き継いだチームを武士監督なりの真のチームにしていくことと重なっているのだと思います。

クルマのことはわからないけれど、チームづくり、組織づくりは私もお手伝いできることがありそうです。武士監督のもとには、多くの支援の声が届いているようです。私も武士監督と伴走し、時には背中を一番強く押し、リスタートへの歩みを進めていきます。

ホピ子は、ホピ子かホピ輔かわかりませんが、必ずや蘇ります。その時を、ホッピーも一緒に待ちます」。HOPPY team TSUCHIYAのストーリーは、まだ先へと続きます。