金曜午前8時。「花金」にそなえ都内の居酒屋は嵐の前の静けさの中にありそうなものだが、ここは違う。JR恵比寿駅西口を出て左手に徒歩2分、赤提灯と「日本一 恵比寿たつやのやきとり」の看板が目印の「たつや」は創業41年、午前8時開店・翌朝5時閉店という、21時間営業の居酒屋だ。訪れたこの日もコの字カウンターはもちろん、テーブル席にも先客の姿が。常連・夜勤明けと思われる顔ぶれ、スーツ姿のビジネスマンなど、眠らない街・東京に生きる、まさに十人十色の人々が集まっていた。朝8時から飲んで食べている輩がいるのをみているだけで「まだまだ日本は大丈夫だ」と思ってしまうのはなぜだろう。踊る心に駆けつけ一杯、さっそく黒ホッピーを注文する。
黒ホッピーは浅煎りから深煎りまで4種類の麦芽を厳選、黄金率を見出して味を追求したうえ、ホッピーと同様に低糖質・低カロリー・プリン体ゼロという「健康優良・東京ドリンク」。そのまま飲む派も多いが、喉越しのよい黒タイプなので、ホッピーと混ぜてハーフ&ハーフにするのもおすすめだ。起きたばかりの五臓六腑に染みわたる飲みやすさとうまさ。エンジンがかかってしまいそうなところで、会うべき御仁が現れた。「お!いらっしゃい!飲んでるかい?」 店内がパッと明るくなる声と笑顔。御仁の名は佐藤正光さん、「たつや」の名物店主であり会長、そして黒ホッピー誕生のきっかけとなった「黒幕」だ。
黒ホッピーが販売を開始して25年になることを伝えると、開口一番、「もうそんなになるかい?早いねえ!うまいもんね、僕も毎日飲んでるよ。もっともっと飲んでほしいねえ!」。大阪出身の佐藤会長が上京したのは28歳のころ。「遅い方だよね。でも東京に行かなきゃと思ったんだ」。自身のインスピレーションに従い人生を歩んできた佐藤会長は、タクシードライバーや建築業を経て、目黒にあるボウリング場の支配人になった。ホッピーを初めて飲んだのは「忘れもしないよ、48年前だ」。たつやを創業する前のことで、「師匠」である中目黒のやきとり屋「さつまや」で飲んだのが出会いだったという。